Mawaru 最近増加している女性の性感染症の話

20世紀後半の抗菌剤の目覚しい発展により、感染症はかなりコントロールしやすい疾患となりました。その中で最近のクラミジア感染症やHIV(エイズ)などの性感染症は感染初期の症状が顕著でないことが災いして、その当事者が医療機関を受診することが少ないために診断されないまま、またさらなる感染を起こすために、深く静かに蔓延し、広範囲に拡散しつつあります。

性感染症はSTD(Sexually Transmitted Diseases)と呼ばれています。このSTDには様々なものがありますが、女性のSTDの代表的な疾患には以下のようなものがあります。

 (1) クラミジア感染症

 (2) 性器ヘルペス

 (3) 尖圭コンジローマ

 (4) 淋菌感染症

 (5) 梅毒

 (6) HIV

 (7) その他

女性に限って言えばSTD全体で言えば10才代後半から大きく増加し、20才代前半でピークとなりその後下降して40才代に入ると分布カーブが平坦化します。このピーク時の感染診断者頻度は同年齢人口の2.2%にも達し、産婦人科受診患者で言えば4人に1人の割合でSTDが発生しています。

クラミジア感染症は女性は男性の2.45倍と高率で年齢パターンも10才代後半から20才代前半にかけて多く、感染診断者は人口の0.97%にも上ります。ただし潜在する無症候例がこの3倍はあると考えられ、この年齢の女性の約4%、すなわち同年齢人口の25人に1人の罹患率と推定されています。

性器ヘルペスも女性は男性の2.45倍と高率で40才代までは他のSTDと同じパターンですが、この性器ヘルペスは完治せず、再発することが多いために年齢と共に減少して行かず40才代以後では他のSTDは減少して行くために相対的に頻度が増加し、40才代後半以後はSTDの中で頻度的には最も多いものになりますが、絶対数は不変あるいはゆるやかに減少して行きます。

尖圭コンジローマは女性は男性の1.1倍とほぼ同数に近い割合ですが、年齢分布では他のSTDと同様若年者に感染が多く見られています。この尖圭コンジローマはHPV(ヒト乳頭腫ウィルス)というウィルスの感染症なのですが、HPVのタイプは異なりますが子宮頚がんを引き起こす原因もHPVなので、若年子宮頚がんの増加との関連性も注目されています。

淋菌感染症は女性では淋菌性子宮頚管炎を起こしていても無症状のことが多いのですが、男性では強い排尿痛を伴う淋菌性尿道炎を起こすため、医療機関への受診率で言えば圧倒的に男性が多いせいか、男女比は男性が女性の5.5倍となっています。また、産婦人科医療機関でも無症状、無所見の女性に対して淋菌感染症の検査を行うきっかけがつかみにくいといったことから圧倒的な性差が出ていますが、おそらく淋菌感染女性はもっと多いはずではないかと想像されます。

梅毒は古典的なSTDですが、年齢分布では男女とも20才代後半にピークがあり、全STDの中で女性では0.6%程度の割合を占めています。

HIVは届出患者・感染者数はわが国でも3300人を超え、大きな社会問題となっていますが、実際の感染者は把握されている数字の10倍以上ではないかと想像されています。このHIVもクラミジアをはじめとする他のSTDと連動して広がりつつあると推定されています。すなわちこれらのSTDに罹患することは、同じSTDであるHIVの感染する可能性が高く、しかもSTD感染例はHIVにも感染する可能性がSTD非感染例に比べて3~4倍も高いとされています。

文献から引用すると「本邦のSTD流行の現状は無症候性のSTD時代に入り“STDは女・産婦人科”といわざるを得ない所まで来ている」と報告されています。すなわち女性のSTDは一般的に女性では無症状である傾向が強いため、診断や治療に結びつくことが少なく、無自覚のまま放置され、感染者が蓄積してきて大きな感染源となっているわけです。STD対策の指標とされる淋菌感染症患者をみると、欧米では過去15年の間に1/3近くまで減少してきていますが、日本においては増加上向き傾向となっており、欧米並に低下傾向となるような対策が強く望まれます。

参考文献:本邦における性感染症流行の実態調査、厚生省性感染症センチナル・サーベイランス研究班