Opinion  心地よさの基準 しあるくれーる(広島県産婦人科医会会報)リレー随筆  Cat

7年間乗っていた1500ccのクルマが古くなったので、思い切って2000ccのクルマを購入しました。新しいクルマは音も静か、振動も少ない、エアコンも充分効くし、ドアのガタツキもありません。窓の開閉も電動、バックミラーも電動でたたみこめるために立体駐車場もスムーズ。さらに室内もきれいで、外観も無傷。やっぱり畳もクルマも新しいものがいいと思いました。

しかし快適と思った心地よさはしばらくの間で、以前のクルマの方が自分に合っているのではと思いはじめました。たしかに様々な快適らしい要素、心地よいらしい要素に対する配慮はさすがに巨大な自動車メーカーが巨費を投じて開発しているため、隅々まで行き届いたもののように思われます。

個人的にはクルマは2地点間を、移動する道具と考えています。クルマに乗っている間は、移動することが出来れば十分なので、過剰な移動時間のサービスは時間が経つと、むしろ不快感につながります。以下に不快点を列挙してみます。

不快点(1)室内で聞くラジオのスピーカーが6つもあります。これは明らかに1個が楽で、音源が不明のカーステレオが鳴ると疲れ果てて、気分が悪くなります。スピーカーが6つもあると、ラジオの音がどこから聞こえているのか分からず、非常に不自然な感覚となり、ひどく疲れます。私は音楽を聴く場合でもステレオが好きでなく、モノラルが好きです。昔から真空管を使ったラジオ、アンプ、無線送受信機などを自作するのが趣味でしたが、そこでも小さなコーンスピーカー、マグネチックスピーカー、ホーンスピーカーなどで鳴る非ハイファイ音、昔の超再生検波ラジオの音に郷愁を感じ、うっとりとしたものでした。無線機器は性能追求(感度、選択度、周波数安定度、スプリアス低減)のためどんどん複雑化していきましたが、ラジオ、アンプについてはUY42、6ZP1、6AR5などのシンプルな真空管でシンプルな回路の方が好きで、ビーム管は嫌いでした。このようなアンプ、スピーカーから出る音は音源の方向がはっきりし、とても心地よいものでした。

不快点(2)クルマの衝突安全性の追求のためか重量が重く、軽快感がなくなっています。もっさりと動く感じの原因は多分に前後の車軸の外側の重量が増加しているためではないかと想像されます。この状況ではエンジンを大きくしても、出力は増加しますが、ますます重量バランスが崩れてゆくのではと思います。軽自動車でもきびきびと軽く走行、回転できるクルマは乗って気持ちのよいものです。高速道路でいくらスピードが出ても、油の中をヨロイを着て泳ぐような感じは好きになれません。衝突しても助かるクルマは、そのための重量増加、重量配分の問題から、通常の走行には相当の不快感を伴うことになる訳です。移動する機能の極めて優れたバイクのことを考えれば、クルマは過剰な不要物が多すぎます。風と雨がしのげるだけのシンプルな構造のクルマはできないものでしょうか。デザインも曲線を多用し、複雑な形の鉄板やガラスを使っていますが、昔のクルマのような平面と円形のみでデザインすれば無用な費用もいらず、安くて心地よいクルマが出来るのではと考えるのは私だけでしょうか。

不快点(3)クルマの室内のデザインが悪いと思います。パネルは鉄板やアルミ板に必要なだけのメーター、スィッチ、レバーなどを普通に取り付ければよいのに、ダイオキシンの元となるプラスチック素材を多用した複雑な形状のパネルのわざわざ深い穴の奥にメーターを付けたり、スィッチ、レバーのたぐいも多種類の操作が出来るように奇怪な形状をしていて、不快感がつのります。さらにシートは素材が悪い上に、模様がついていて、腰をかけた感じも見た目もがっかりします。床はふわふわとしたカーペットが敷いてありますが、雨、雪、泥などが進入するわけですから、トラック、バス、タクシーなどと同様に鉄板、ゴム材料、木材などのほうが機能的であると思います。

不快点(4)静かすぎ、また振動が少なすぎます。よく整備されたバイクに乗れば心地よいエンジン音と振動が身体に伝わってきて、ガソリンを燃焼させているエンジンにまたがっているという実感がありなんともいえません。しかし、ガソリンが爆発しているとはとても思えないほど静か、さらにほとんど無振動。クルマの後にまわって、マフラーからの排気音を聞けば確かに「気持ちよくガソリンが爆発している」という感じが持てますが、車内では全くそんな気配はありません。これもエンジン音を聞かせない、振動を抑えるために余分な部品をとりつけて不必要に重量を持たせているのではないでしょうか。

その他、色々なことを考え、書き出すと止らなくなりそうです。私は自動車メーカーの人間ではないので、どのようなクルマがよく売れて儲かるのかということはわかりませんが、よく売れて儲かるクルマが心地よいとはいえないと考えます。カメラやコンピュータについても同様のことを考えることは多いのですが、紙面の都合上割愛させていただきます。・・・というようなことを考えはじめると不満のボルテージは高まるばかりです。が、しかし、しかし、「おまえが変わっているだけで、お前以外の多くの人はそう考えてはいない」と言われてしまえば、「変わっているのは私」で何も問題はありません。乱筆失礼いたしました。