Question  昨年妊娠9ヶ月で突然胎盤早期剥離で帝王切開しましたが、結局死産となりました。胎盤早期剥離は突然起こるのでしょうか。原因は何だったのでしょうか。事前の診察で見つけることはできないのでしょうか。次回の妊娠がとても不安です。  Cat

Answer  正常分娩では胎児が娩出されたあとに子宮収縮により胎盤が自然に剥離して胎盤の娩出が起こります。常位胎盤早期剥離とは正常の位置にある胎盤(前置胎盤ではない)が妊娠中または分娩中に、胎児の娩出よりも先に剥離するものです。発生頻度は程度が軽く無症状のものも含めれば全分娩中に1~2%と言われています。この疾患は重篤例では胎児仮死、胎児死亡、母体の子宮を摘出しなければならないとか、さらには母体死亡なども起こりうる重要な疾患です。

原因は不明としか言いようがありませんが、前ぶれとして妊娠中毒症が急速に発症、増悪することもあります。しかし、全く正常に経過されている妊婦さんに突然起こることもよくあります。胎児が入っている子宮内で胎盤が剥離するため出血が起こり、そのため子宮内容が出血のために体積が大きくなり、子宮が風船を膨らませたように硬くなり、正常の陣痛のような痛みの時間的な波がない連続的、持続的な痛みを感じます。また少量の外出血も認められます。胎盤剥離面積がわずかであれば無症状で胎児仮死もないこともありますが、胎盤剥離面積が大きければ胎児仮死、胎児死亡の状態となります。さらにこの状態で時間が経過すると、胎盤剥離面からの出血が子宮の筋肉内に浸潤し、子宮は収縮力を失い、緊急帝王切開術で胎児を娩出させたとしても子宮収縮によって止血させる能力がなくなり、持続的な大量出血につなることになります。また血液学的な変化も発生し、母体に全身的な危険が迫り、さらには母体死亡へと進んで行くことになります。これらの一連の病態変化が突然の発症から急速に進んでゆくため産科救急の中でもきわめて重要な位置を占めています。

常位胎盤早期剥離と診断された場合は、胎児娩出直前であれば吸引分娩、鉗子分娩などによる急速遂娩を行いますが、胎児の分娩まで時間がかかる場合や妊娠中であれば緊急帝王切開術の適応となります。しかし、前述のような急速な状態悪化がおこることが多いため、早期治療にもかかわらず胎児死亡が発生したり、母体の子宮摘出などを余儀なくされることも多いものです。

したがって、おたずねの原因については不明としか申し上げられません。事前の診察で全く異常が認められないことも多いため、発生を予測することはきわめて困難と言えます。さらに次回の妊娠については早期剥離の反復率は5~16%程度と報告されていますので、前回の経過を踏まえて診察の間隔を短くし頻回のチェック、さらに充分な胎児のモニタリングを行って、異常の早期発見に努めるようにする必要があると思われます。