Question  現在2人目を妊娠中です。先日、上の子が水ぼうそう(水痘)になり、感染を心配しました。もし感染していたらおなかの子に何か影響があるのでしょうか。  Cat

Answer  母体に感染する病原体が妊娠、分娩、授乳を通じて胎児、新生児に感染することを垂直感染と呼んで、人から人への感染(水平感染)と区別しています。垂直感染は (1) 妊娠中に胎盤を経て、あるいは膣から子宮内にウィルスが侵入して起こる胎内感染、 (2) 分娩中に外陰、膣内、血液中のウィルスによって起こる産道感染、 (3) 授乳中に母乳中に含まれるウィルスによって起こる経母乳感染の3つがあります。垂直感染の特徴はウィルスに感染している母体から胎児を切り離すことができないので予防が困難なことと、胎児、新生児は免疫力が未熟であるため、ウィルスを排除することが十分に出来ず、成人より大きな影響を受けたりウィルスの持続感染になりやすいことがあげられます。

まず胎内感染についてお話すると、一般的にウィルスが胎芽、胎児に感染した場合には、細胞を破壊する力の強いウィルスが感染すれば流産、早産、死産という形をとります。しかし細胞を破壊する力の弱いウィルスでは流産になることはむしろ少なく、胎児に先天奇形といった形で影響を残すことになります。妊娠初期の風疹感染やサイトメガロウィルスが有名ですが、お問い合わせの水痘ウィルスによる胎内感染は妊娠初期(約10週まで)の器官形成期に胎児に影響を与えることはなく、器官形成期をすぎてから胎児組織の破壊とこれに伴う炎症性の変化によって形態異常が発生すると考えられています。ただし胎児異常の発生頻度は低く、3%以下とされています。(何も感染など原因となるものがなくても1%胎児異常は発生します)異常の症状は皮膚、眼、四肢の異常や精神発達障害などが報告されています。しかし、前述のごとくの胎児に異常が発生することはまれであるため人工妊娠中絶術を考慮する根拠にはならないというのが一般的な考え方のようです。

次に水痘感染では先天感染の問題があります。先天感染とは出生時に水痘の症状をもって生まれる場合で、この場合母体の水痘感染から分娩までの時間が問題となります。母体が水痘感染を受けてから免疫抗体が出来るまで5日ほどかかります。したがって水痘感染から5日以上経過して生まれた新生児は母体より免疫抗体をもらっていることになり(受動免疫)、したがって重症水痘となって死亡する例はありません。さらに母体の水痘が治癒してから生まれた新生児には先天感染もありません。しかし母体の水痘感染から4日以内に生まれた新生児は母体より免疫抗体をもらうことが出来なかったため重症例が多く、高熱を引き起こし、しばしば肺炎、脳炎を起し死亡例もあります。このことは分娩直前の水痘感染は新生児にとってきわめて危険性が高いといえます。おたずねの方が分娩直前でしたら、主治医に上のお子さんが水痘にかかったことを話して万が一の対策をたてておくべきでしょう。分娩後の水痘感染では分娩後10日以上たってからは新生児に感染する可能性は低く、重症化するケースはないようです。

以上のお話は母体が水痘感染にかかったことがない前提でお話しています。大多数の方は小児期に水痘をすませておられることがほとんとです。したがって大人になってから妊婦さんが水痘感染を起すことはまれであるため、過剰に心配される必要はありません。